最近、ギターをやり始めた。
今まで音楽なんて聞いているだけで、音楽を始めるような知識なんてものは全くない。
けど、何となくギターを始めようと思った。とはいえ、いきなりギターを始めた人間が何
か出来るわけもなく、ぼんやりと音が鳴るのを確かめるくらいしか出来る事がなかった。
 そんな事をいつまでもしていたからといって上達するわけもなく、仕方なしにギターを
持ってギターショップで何か初心者向けの本を買うことに決めた。
「重いな…」
 初めてギターを持ってみたが、意外と重い。加えて無駄にでかいわ、背中が暑いわでギ
ターを担いでいる人に対して少しだけ尊敬の念を抱いた。
「あいつも、こんなのを毎日背負ってたんだな…」
 いつかこの重さが平気になる日が来るのかななんてぼんやりと考えて歩いていたら、い
つの間にかギターショップに着いていた。
 前に一度だけギターショップに連れていってもらった事があるが、やっぱりギターを担
いでいても自分には場違いなんじゃないかなんて空気を感じ取ってしまう。
「…あれ? お前なんでこんなとこにいんの?」
 適当に店内を眺めていたら後ろからよく知った声がした。
「お前ギターなんてやってたっけ? って…まさか、お前…」
「うん、ちょっと、何となく始めてみようかなって思ってさ」
「…それは、未練か? それとも、後悔か?」
「いいや、違うよ。ただ、部屋でずっと埃かぶってるくらいなら、使ってやろうかな、な
んて思ってさ」
「…お前…思い出は、思い出としてしまっておくべきじゃないのか」
「でも、ほら、このギター自身にも未練があるんじゃないかな? もうすぐ、CDで音を
奏でるはずだったんだしさ」
「それは、お前自身の未練をすり替えてるだけだ。…それに、なんであの時そのギターも
一緒に弔ってやらなかったんだ?」
「そういえば…そうだね。なんで、これが残ってたんだろう…」
「残っちまってるもんは仕方ねーけど、それでも、お前がギターを始める必要なんてねー
んだよ」
「…何か、初心者にお勧めの本ってない?」
「…お前…いや、分かった。俺が始めた頃に使ってた本と同じやつが売ってるからそいつ
を買え」
「ありがとう」
「なにかあったら、俺に連絡しろよ」
「ああ、分かったよ」
 お節介な親友に勧められて初心者用の教本を購入して、自分のアパートに戻った。
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